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大腿骨頸部骨折

大腿骨頸部骨折

2025/10/24

1.概要

大腿骨頸部骨折とは、太もも(大腿骨)の上部、股関節に近い「頸部(けいぶ)」と呼ばれる細くなった部分で生じる骨折のことを指します。 
この部位は体重や衝撃を受けやすく、特に高齢者で骨粗鬆症(骨粗鬆症)がある場合には、比較的軽い転倒や捻り動作で発生することがあります。
また、この骨折は、歩行不能・長期臥床・寝たきり・介護状態へと移行しやすい重大な出来事であり、医療・社会両面での対応が重要です。

2.原因・発症メカニズム

(1)解剖学的位置・力学的背景

大腿骨は人体でもっとも長く、かつ強い骨のひとつです。 
その上端部には「骨頭(こっとう)」と「頸部(けいぶ)」があり、骨頭は股関節を構成する寛骨臼(かんこつきゅう)にはまり、頸部が骨頭と大腿骨幹部(だいたいこつかんぶ)をつなぐ細長い部分となります。 
この頸部の部分は構造的に細く、かつ股関節からの荷重や転倒時の衝撃が集中しやすいため、骨折しやすい“弱点”となります。 

(2)リスク因子と誘因

高齢化・骨粗鬆症:加齢に伴って骨密度が低下し、骨の強度が弱まります。特に閉経後の女性では、ホルモン変化による骨量の減少が顕著です。 
骨密度が低下した状態(骨粗鬆症)は、転倒などの軽微な外力でも骨折を起こしやすくなります。 

転倒・つまずき・外傷:典型的には、立った状態から尻もちをついたり、階段や段差の踏み外し、滑ったり転倒したりすることで発症します。 
特に高齢者では、バランス機能の低下・筋力低下・環境因子(床の段差・滑りやすい床)などが重なり、転倒リスクが上昇します。 

骨折部位の血流・構造的脆弱性:頸部骨折では、骨頭への血流を供給する血管(例:大腿回旋動脈枝など)が損傷されることで、骨癒合が困難となったり骨頭壊死(骨頭の血流障害による壊死)を起こす危険性があります。 

(3)発症機序

転倒や外力が頸部に加わる → 骨の強度が低下している場合、頸部に亀裂(ひび)が生じることもある(X線で明確に写らないことも) → 完全な骨折へ移行することがある。 
骨折が起こると、荷重を支えることができず、脚に体重をかけられなくなったり、歩行不能になったりします。さらに、骨片のずれ(転位)が起これば血流・構造面で障害が大きく、治療・予後ともに困難になります。 

3.症状・所見

(1)主な症状

股関節(そけい部~脚の付け根)・大腿部(太もも)に鋭く持続する痛み。

体重をかけて脚を動かせない・立てない・歩けない。多くの場合、転倒直後にその場で動けなくなることが多い。 

骨折側の脚が外旋(つま先・膝が外側を向く)し、脚の長さが短縮して見えることがある。 

腫れ・打撲・内出血(あざ)を伴うことも。 

(2)身体所見・画像所見

触診で骨折部位の圧痛・脚を動かそうとすると強い痛み。

X線(レントゲン)では、骨折線・転位・骨片のずれ・骨頭との関節関係の変化が確認されます。亀裂骨折等でX線で明らかでない場合はMRIやCTが用いられます。 

典型例では、脚が外旋し、短縮している所見。歩行不能・荷重不能の所見。

(3)重篤性・緊急性

この骨折は、単なる骨折以上に高齢者の機能低下・寝たきり・認知症の進行と関連し、発症後の早期対応が極めて重要です。

4.分類・病型

骨折のタイプ・状態・転位の有無等によって、治療方針・予後が大きく変わるため、分類が重要です。以下、代表的なものを紹介します。

(1)部位による分類

頸部(関節包内)骨折:大腿骨の骨頭と骨幹をつなぐ「頸部」で起こる。血流障害を起こしやすく、癒合が困難なことがあります。

転子部・遠位近接部(関節外)骨折:頸部よりも下側、股関節近くの「転子部」で起こる骨折。比較的癒合しやすいが、受傷時の衝撃が大きく全身状態への影響も大きくなりがち。

(2)頸部骨折の代表的分類「ガーデン分類」

この分類は、転位の程度と骨折の安定性を評価するものです。 

型状態備考

I型不完全骨折、転位無または極めて少ない外反変形あり得る

II型完全骨折、転位なし比較的安定型と考えられる

III型完全骨折、部分転位あり不安定性が増す

IV型完全骨折、完全転位血流障害・骨壊死リスクが高い

ただし、実際には観察者間の一致率が低いという報告もあります。 

 

(3)パウエル分類(頸部骨折における骨折線の角度)

骨折線が水平から垂直に近づくほどせん断力が大きくなり、治癒・固定の難度が上がるという考え方に基づいています。 

(4)治療・予後からの簡易分類

実臨床では「転位なし・ズレが少ない安定型」「転位あり・ズレがある不安定型」に大別して治療方針を立てることが多いです。

5.治療

(1)保存療法(手術を行わない選択)

転位がほとんどなく、患者の全身状態・手術リスクを考慮して保存療法が選ばれることもあります。

安静による荷重制限・ベッド上療養・装具療法等。
ただし、頸部骨折は血流障害のリスク・癒合不良のリスクが高いため、保存療法では長期間の臥床・筋萎縮・寝たきり・認知機能低下のリスクが高まります。

(2)手術療法

多くの場合、手術が第一選択となります。特に高齢者で転位のある骨折・早期歩行が求められる場合は手術が推奨されます。

主な手術法は以下の通りです。

内固定術(骨接合術):金属スクリュー・プレート・ネイルなどを用いて骨片を整復・固定する方法。転位の少ない若年者・活動性の高い中年者などで選ばれることがあります。 

人工骨頭置換術/人工股関節全置換術:骨頭の血流障害・壊死が予測されるケース、または高齢で歩行回復を速やかに図る必要がある場合などに、骨頭部分を人工物に置き換える方法。

6.合併症・予後

(1)合併症

骨頭壊死:特に頸部骨折で血流が遮断された場合に生じやすく、将来的に関節変形・偽関節(骨が付かない状態)を引き起こす可能性があります。 

偽関節・遅延癒合:骨折が治りにくい・癒合まで時間がかかるケース。特に不安定型・転位大・骨粗鬆症例でリスク高。

深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症:長期臥床・歩行制限の状態では血流が滞りがちで発生リスクが増します。

感染症・創部トラブル:手術を伴うためリスクあり。

筋力低下・廃用性萎縮・褥瘡(床ずれ)・肺炎など臥床合併症。特に高齢者では、骨折を契機に要介護状態へ移行することが少なくありません。

(2)予後・機能回復

歩行機能の回復には個人差が大きく、転位少・手術適切・リハビリ良好な例では自立歩行へ戻ることもありますが、必ずしも元のレベルに戻るとは限りません。

日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)や歩行能力が骨折前の状態から低下してしまうケースが多く、寝たきり・要介護状態へ移行する一因となっています。

(3)予後を良くするための鍵

早期の手術・早期荷重開始・適切なリハビリテーション

骨粗鬆症の適切な治療・転倒予防・筋力低下予防

全身の健康状態(栄養・心肺機能・認知機能)の維持

7.予防・管理

骨折を防ぎ、起きてしまった場合でも後遺障害を軽くするためには、以下のような対策が重要です。

(1)骨粗鬆症対策

定期的な骨密度検査を行い、骨粗鬆症の有無・進行を把握する。

カルシウム・ビタミンDの摂取(食事・サプリメント)および骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート・デノスマブ・テリパラチドなど)を検討。 

適度な運動(筋力トレーニング・バランス訓練・ウォーキング)により骨への荷重刺激を与え、骨の強化を図る。

喫煙・過度の飲酒・飲薬(長期ステロイド)など骨質を低下させる因子を避ける。

(2)転倒予防・環境整備

室内外の滑りやすい床・段差・手すりの未設置・照明不良などを改善。

高齢者ではバランス能力・筋力低下が転倒の原因になるため、転倒リスク評価・理学療法による予防も有効。 

足元をすっきりさせ、適切な履物を使用する。

夜間にトイレに起きる場合など、照明・手すりを確認しておく。

8.高齢者・骨粗鬆症との関連

高齢化社会において、特に高齢女性において大腿骨頸部骨折は重大な課題です。

高齢者では転倒リスク・骨質低下・筋力低下・複数薬の内服・認知症・運動器障害などが重なり、骨折の発症率・予後ともに悪影響を受けやすい。

社会では、年間10万件以上の「大腿骨近位部骨折(頸部+転子部)」が発生しているというデータもあります。 

骨折がきっかけとなって「寝たきり」「要介護」「閉じこもり」「認知機能低下」を引き起こすケースもあり、単なる骨折以上に“人生の転機”となることがあります。

そのため、高齢者では骨粗鬆症の早期発見・転倒予防・運動機能維持が、骨折リスク低減および骨折後の回復促進にとって極めて重要です。

9.まとめ

大腿骨頸部骨折は、単なる骨のひび・折れとして軽視できない疾患であり、特に高齢者においては“人生を変える”重大な出来事となりえます。
以下、ポイントを整理します。

高齢・骨粗鬆症・転倒というリスク因子が重なると発症しやすい。

症状としては股関節・大腿部の激痛・立てない・歩けないという所見が典型的。

診断にはX線・CT・MRI・骨密度などの総合的な評価が必要。

治療は速やかな手術+リハビリ+骨粗鬆症対策が鍵。保存療法のみでは機能低下・寝たきりリスクが高まる。

合併症・予後では骨頭壊死・偽関節・歩行不能・死亡・要介護移行が問題。

予防としては、骨密度維持・転倒予防・運動・環境整備が重要。

医療・社会的観点から、早期診断・治療・地域連携・リハビリ支援が求められています。

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